2008年11月20日木曜日

鈴木洋氏の辞任で、取締役会の悪を隠蔽するべからず(日本社会のためにも)。

私がどうしても皆さんにお伝えしたいのは、HOYA株式会社のコーポレート・ガバナンス(企業統治)は三流以下の構造だという悲しい事実です。1050億円の買収費用(負債額を入れると約1500億円)をかけたペンタックスの赤字が発表されています。HOYA株式会社の中間決算の発表によると、当期の売上高は695億1600万円であり、営業損失が24億9600万円となっています。つまりHOYAの株主にとっては、株主資本の巨額の無駄使いだったということで、いみじくも私の日経ビジネスでのコメント(ちなみにこちらこちらも参考。すべて私の予測どおりである)が、全くそのとおりになっているわけです。

2006年冒頭では、デジタル・カメラのヒット商品(K10DとかK100Dのこと)の登場によって、ずっと長年赤字だったカメラ部門が一時的に黒字になっていたことによって、会社全体が同じく一時的に営業黒字になっていたことは、普通に考えればわかるわけで、デジタル・カメラの製品開発の周期(新しい製品をどのくらいの頻度でださなければならないか)が1年半から2年程度であることを考えると、買収騒動渦中以前であっても、こういった結末(数年後にすぐに再び赤字に転落)は、普通に考えれば予想が出来ていたわけであり、経営陣の責任は言うまでもありません。

こんな採算性の乏しい事業を高値で掴んでいるのは、経営陣のビジネスセンスのなさと無能さを表していますし、現在のHOYAの主力事業は、80年代までに構築されたものなのです。少なくとも技術担当者の丹治宏彰氏は、まったく実績がないので、今すぐ更迭し、事業開発に実績のある人材に交代させるべきでしょう。

鈴木洋氏ほかの経営陣の辞任と経営陣の刷新は止むなしという見解が、外資を中心とした機関投資家だけでなく、個人投資家の間でもほぼ共通見解になりつつあります。 こんな結末は、創業家の末席の一員としては、悲しいとしか言いようがありませんが、会社は公共的なものなので、この期に及んでは、それも仕方ないでしょう。

鈴木洋氏については、私の親族であるので、大変残念なのですが、私の様々な観察事実からいっても、欧米の似たような規模の会社のトップ・マネージメントと比べると、教育水準と知的情報処理の能力が足りないことは、この期に及んでは明らかだと思いますので、私は2年間の欧米でのビジネス・スクールの留学を義務付け、きちんとした経営者教育を受けてから再出発してほしいと思うわけです。 大体経営者の家に生まれ、将来会社の経営をする可能性が極めて高いということがわかっていたにも関わらず、一定以上の水準の海外大学でのMBA(経営学修士号)の取得すらしていないのだから、お話にならないわけです。

皆さんも、普通に比較して、考えて見ていただきたいのすが、日本の他の会社で、いわいる世襲で経営者になっている人、例えばイオン岡田元也社長早稲田大学商学部を卒業後、バブソン大学のMBAを取得していますし、エーザイの内藤晴夫社長も、慶応義塾大学商学部を卒業後に、ノースウェスタン大学のMBAを取得しています。ファナックの稲葉善治社長も、東京工科大学で博士号を取得していますし、トヨタ自動車豊田章男副社長も、慶應義塾大学法学部を卒業後にバブソン大学でMBAを取得しています。キャノンの故御手洗肇元社長キヤノン創業者御手洗毅氏の子、現会長の御手洗冨士夫氏の従兄弟)は、マサチューセッツ工科大学卒業後に、スタンフォード大学の博士課程まで修了して、技術を学んで、キャノンの中央研究所の所長を務めていました。

もちろん彼らの全てが経営者として立派に株主価値の増加に成功しているかというと、必ずしもそうとはいえないのですが、彼らと比べても、鈴木洋氏は教育的にも、経歴的にも、能力が足りないままに経営者になってしまっているわけです。MBA留学だって、ノウハウを学ぶための他社勤務(投資銀行コンサルティング会社プライベート・エクイティー投資会社など、ノウハウがてにいれられるのならば、なんでも結構です。少なくともこういった職場でのまともな勤務経験があれば、ペンタックス社の1500億円高値掴みは避けられたでしょう)だってかなり自由にできるだろうに、努力をまったく心掛けてこなかった傍証です。普通にこういった質的データを考慮しても、その後の経営の低迷を考慮しても、父親の鈴木哲夫氏は、いったいどういう教育方針だったのでしょうかと、普通の人だったら、まあ疑いたくなると思います。私の知人のコンサルタントの方は、鈴木哲夫氏のことを、「人の育てられない人」といっていましたが、まさにその通りだったのでしょう。いくら自分がやっている時には自分がやって経営が良くても、後継者が優秀ではないと、会社は貯金を使い果たして低空飛行してしまうのです。私がせめて鈴木哲夫氏に望むのは、自分の過ちをきちんと認めて、株主に正式に謝罪、経営陣の交代を断行することです。

しかしより問題としては、この会社の将来を本当に考えた時により悪質なのは、こういった株主資本の明らかな無駄使いを経営陣がなぜか推進しようとしたことを許容・積極容認した、HOYAの取締役会と5名の社外役員諸氏(椎名武雄氏塙義一氏児玉幸治氏茂木友三郎氏河野栄子氏)です。

ちなみに私は、社外取締役各氏5名に対して、「この合併はうまくいかないので、中止するべきである」という手紙を、合併騒動渦中に2度にもわたって出したのですが、完全に無視されました。ある取締役(児玉幸治氏)は、「ペンタックスの従業員の過半数が、HOYAとの合併に賛成している」ということを、合併賛成の根拠として、私に説明しました。

私は児玉幸治氏の言葉を聞いて、「は?」というのが正直なところでしたが、本人は悪気がないようですし、いいことをやっていると思っていて実際は社会に悪を垂れ流しているいい例です。つまるところ、70歳以上の社外取締役諸氏の経験則や経営観と、グローバル化した資本市場(証券市場)で上場している会社の経営がどうあるべきかという規範において、乖離が発生してしまっているわけです。

そもそも役員の個別報酬が開示されていないのも、国際水準で見ればおかしな話で、社外役員は株主ではなく、経営陣からお小遣いを与えられて、無能な経営陣に買収されているのかと、言いたくなります。 月1回出社で年間1000万円と推定されるそのお小遣いは、株主資本からでているわけです。椎名武雄氏は10年以上も社外役員を務めていますので、トータルで推定1億円以上の報酬を受け取ったということになります。 また経営陣との癒着を防ぐために、社外取締役は10年以上は務めないというのが、北米での慣例(CFA受験やビジネススクール1年生のファイナンスの教科書レベルの話)ですが、そんなことも守られていないわけです。

私は数多くの日本やアメリカ、欧州、あるいは途上国出身の経営者と実際に付き合ったり、仕事をしたりした経験から断言できますが、HOYAの経営陣の能力は、能力が相対的に低いといわれている日本の上場企業の経営者の中でも、低い部類に入ります。必要のない買収を行うことで積極的に株主価値を破壊しているので、株主価値に与える影響は大きく、まだ何もしない経営者の方がよいということです。

そうではあるのですが、構造からいえば、株主が取締役を選び、取締役が経営陣・執行役を選んでいるのだから、こんな無能な経営陣をそのまま放置している取締役会のほうが、本丸の悪なのです。こんな会社のコーポレート・ガバナンスが絶賛されていたこと自体が、日本社会にとっても、日本人にとっても、まったくもって、本当にとんでもない話で、マスコミ諸氏(例えば週刊ダイヤモンド誌元編集長の辻広雅文氏や、経済評論家の山崎元氏)は、すぐにでも猛烈に反省して、あやまった内容の記事を垂れ流していることをやめるべきなのですが。 いずれにしても、投資家が声を上げなければ、日本社会に明るい未来はありませんし、庶民版アクティビスト・ファンドが出てくるべき時なのかもしれません。

2008年11月14日金曜日

アメリカ大統領選について思う(7):インターネット選挙運動の存在しない日本を悲しく思う

今回のアメリカ大統領選において、バラック・オバマ(Barack Omaba)候補はインターネットを極めて有効に使ったといわれていますし、様々な観察事実から、私もそのようにいえます。

例えば献金についてですが、オバマ候補は集金力に優れていましたが、それはインターネットの窓口から小口の献金を集めた積み重ねだとされています。これは相対的に大口の献金者が多かったヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)候補と対照されます。20代や30代の学生や社会人が、クレジットカードで3000円とか4000円とかいう金額をオバマ候補に寄付した結果、史上最大の献金が集まっているのです。これは驚くべきことです。

一般に民主主義下においても、例えば農業や防衛産業などの利害集団が人口比と比較しても強い力を持っているのは、利益集団の利害が集団内でより均一であるために、「ただ乗り(フリー・ライダー)問題」を回避しやすく、集団としてのロビー活動をしやすいからだと言われています。また投票行動自体が均一的であるという点も、指摘されます。
その結果として、利益集団としての単一の行動を取りにくいサイレント・マジョリティー(静かな多数派)よりも、政治的な力や利権誘導力をもつとされます。

サイレント・マジョリティーである大衆(例えば、日本における都市の中所得層や若年層)は、頭数が多くても、政治的に束になってかかってこないので、政治家からは甘く見られているのです。
ところが、今回の大統領選挙(民主党の予備選を含む)では、インターネットがサイレント・マジョリティーの政治参加に重大な変化を起こしたのです。

まず投票行動では、明らかに投票率があがっており、これは通常選挙に行かないか、そもそも選挙人登録すらしていない若年層が、選挙に行って、オバマ候補に投票したということが、大きいと言われています。またMeetup.comというソーシャル・ネットワーキング企業のサービスを利用した、見ず知らずの人が集会を行う方法も多用されていました。

ちなみにこういったインターネット選挙運動の先駆となったのは、2004年大統領選のハワード・ディーン(Howard Dean)候補(当時前バーモント州知事:民主党)の選挙活動でした。今回のオバマ候補は、そういった過去の経験を極めて有効に使ったのです。 私は、実際に使うことのできる資源を利用して、こういった戦略を立てられて、実際に選挙戦を有利に進めることのできた点にも、オバマ次期大統領の能力の一端を垣間見るのです。

日本でも宗教団体や、一部の利益集団(医師会、全国特定郵便局長会議、農協、労働組合など)が、どの政党や候補を支援するかが重要でした。しかしそういった集団の力は相対的には弱まっています。しかし例えば都市の若年層の集団が、政治において有効に力を行使し、政治を変えたというようには、いまだなっていません。

これは総務省がインターネット選挙運動を禁止していることとも大きく関係しているのです。日本では、インターネット・サイトの更新が、第142条第1項で禁止されている「文書図画の頒布」にあたると解釈されているされているから(ウィキペディア関連記事参考)なのですが、そもそもこの条項は、戦後に共産党が人海戦略で選挙活動をやることに対抗するためのものだったわけですが、いま既得権保持のために使われているわけです。私はこれを、なんとも悲しいことだと考えるわけです。

2008年11月5日水曜日

アメリカ大統領選について思う(6):オバマを選べたのは、ブッシュ政権の貢献

すでに報道されているように、バラク・フセイン・オバマ候補(上院議員)が、次期アメリカ大統領に選ばれました。黒人初のアメリカ大統領であり、40代と年齢も若い指導者の誕生です。
誰が10年前に、黒人の大統領がこんなに早く生まれると思ったでしょうか。

ヨーロッパの各都市では、選挙速報を見るパーティーなどが行われていました。もちろん基本的には、オバマ候補を応援するものなのですが。

私が思うに、ブッシュ政権の貢献は非常に大きいと言えます。すでに別のところで述べたように、これだけ失態を繰り返した結果、アメリカ政治とブッシュ政権の問題が非常にクリアになったことなくては、オバマ候補が選ばれることはなかったといえます。要するにブッシュの失態が、オバマ大統領を生んだのです。

誰の目からも問題を認識するようにするということは、政治的進歩にとって、非常に重要なことのなのです。実は私は、このことこそを、麻生太郎総理に期待しているのですが。